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計算尺

序説

 それは遠い昔、新聞の広告に載っていた「電子計算尺」という文字。子供だったから、計算尺自体知らないし、電子がついた計算尺ってなんなのかいよいよわかりませんでした。だけどほしかったんだよね。
 そうです。私、電子計算尺がほしかったんだよ。関数電卓ではなく……。
 そして今買えるのは、計算尺です。電気屋なり文房具屋に行って「電子計算尺ください」って言っても、「へ?」って顔されるんじゃないかな……。
 実用性は皆無と言ってよい計算尺のことを、ちょっとだけ語らせておくれ……。

 ちなみに計算尺はまだ買えます。
 もっとも、オフィス用の事務用品だと思って銀座伊東屋の3階に行ったのでは、計算尺の説明からはじめないといけません。(メジャーと勘違いされてそれを解くのに3分はかかった。)8階に行って聞きましょう。製図器、定規の親戚という扱いのようです。計算尺は引き出しの中に入っています。製造中止の場合もあるので注文を受ける時は慎重にみたいな注意書きもありました。
 そこで数種類買いますと、帰りにめがねっこなエレベーターガールに逢える僥倖が待っているかも。

歴史と原理

・1614年 スコットランドのジョン・ナビールが対数の原理を発見
・1620年 ロンドン・グレシャム大学のエドモンド・ガンター教授が対数目盛を創始
・1630年 ウイリアム・オートレッドが2本の対数目盛を使って計算尺の原始的構造を発明
(コンサイス円形計算尺の説明書から)

 発明・発見される時は大変なことだけど、今にしてみれば小学生でも知っている……なんてことはよくある話な訳だけど、計算尺の原理も同じことは言えると思います。

 小学生の時に、足し算引き算を定規の目盛みたいな方法で計算するって話を習った人はいると思います。
 ここでおさらいすると……。

 まず同じ目盛の定規みたいなものを自作する訳だな。
 等間隔に目盛をふり、左から0〜10とでも振っておく。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
| | | | | | | | | | |

| | | | | | | | | | |
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

 例えば2+3を求める時は
下の2に上の0を合わせ、上の3に対応する下を読み取ると5になっているから
答は5だ。

    0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
    | | | | | | | | | | |

| | | | | | | | | | |
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

 引き算だってこれでも可能
 7−3を求める時は
下の7に上の3をあわせて上の0に対応する下を読み取ると4になっているから
答は4。

 ところで足し算引き算だとわざわざ計算尺を作るほどでもない。
 算木だとかそろばんとかで十分。碁石なんかでもいいよね。

 掛け算割り算に使えないか……。

 そうだ、指数法則が使えるじゃないか。
 指数部分だけ見れば、掛け算は足し算になるし、割り算は引き算になる。

【ここで指数の簡単なお勉強】
 正の数は、「何かの数A(1以外の正の数)をB回掛けた数で表現できる」訳でして。
 例えば100は10×10なので「10を2回掛けた数」
 1000は10×10×10なので「10を3回掛けた数」として表現できます。
 知っている人は「10の2乗」と言えば「10を2回掛けた数」を指すことも知っているはず。
 ところで100×1000は100000だよね?
 これを全部「10を何回掛けた数」式で表すと
「10を2回掛けた数」×「10を3回掛けた数」=「10を5回掛けた数」
 というようになるし、察しのいい人は回数部分に着目して
「2+3=5になっているやん」ってことにも気づくはず。
 この回数部分を「指数」と呼びます。
 そして指数は回数なんで本当は自然数(1から始まる正の整数)なんだけど、これがすべての数に対応でき、対応させても上で言う指数法則にあてはまって問題がないとなれば……だ。
【ここで指数の簡単なお勉強終わり】

 目盛を指数のとおりに作り直してみようじゃないか。

          十 百 千 一 十 百
一 十 百 千 万 万 万 万 億 億 億
| | | | | | | | | | |

| | | | | | | | | | |
一 十 百 千 万 十 百 千 一 十 百
          万 万 万 億 億 億

これを使うと100×1000だってこのとおり

              十 百 千 一 十 百
    一 十 百 千 万 万 万 万 億 億 億
    | | | | | | | | | | |

| | | | | | | | | | |
一 十 百 千 万 十 百 千 一 十 百
          万 万 万 億 億 億

こうやって掛け算を足し算に、割り算を引き算に直すことで
面倒くさい計算を簡単にしてくれる道具が計算尺なのさ……って次第。

もっとも現実の計算はこんな簡単なものじゃないよね。指数が整数どうしなら実は「0の数を数えればよい」んで……。100×1000だと0の数が2個と3個だから「1×1」の答の1の後に0を5つ書けば正解。100000÷1000なら「1÷1」の答1に0の数5個から3個を引いて2個の0を書き足せば終わり。必要なものは「1×1」とか「1÷1」の部分が別の数字の場合。そこで「1から10まで」の場合に対応できるようにしたのが、現実の計算尺なんです。
なんで「1から10までか?」って?
10倍で一区切りでしょ?0.9なら9の10分の1だからわざわざ1より少なく0.9にする必要がないし、11なら1.1の10倍なんでこれまた10より大きいのを考える必要がない……。
だから「1から10まで」でたりるし、それは指数という面で見ると「1は10の0乗、10は10の1乗」だから「0〜1」すなわち「指数の小数点以下の部分」ということになり、結局計算尺というのは「数を指数で表現し、指数の小数点以下の部分を使って足し算引き算することにより、掛け算割り算ができるようにした道具」だと言える訳です。
 

計算尺に用意された尺の種類

 とはいえ、現実の計算尺はこんなものではありません。まず棒状に目盛をふったものだと、2本をずらしたのではその2本が離れてしまうと役に立たなくなりますから、3本を用意して真ん中の尺だけを動かせるように両端の尺を板で固定してしまうのが基本型です。もしくは棒状にせず円形にして中心をとめてしまうのもありでしょう。(棒状のものは数を長さに置き換えていることになるが、円形のものは数を角度に置き換えていることになる。)
 そして1本の尺や円盤には何系統のも目盛をふることが可能ですから、そこをうまく使っていろんな計算ができるようにすることが、計算尺設計者の腕の見せ所と言っていいでしょう。
 そんな尺の種類を見てみます。
 

C尺 D尺

 基本となる尺です。「1〜1(10の意味)」の目盛をふってあります。
 普通は動く部分の方をC尺、動かない方をD尺と言いますが、円形の場合、普通はD尺に答を見つけるということ以外にはあまり区別する意味がないでしょう。
 

CI尺 DI尺

 C尺D尺が左から右へ大きくなるようにふっているのに対し、CI尺DI尺は逆に右から左へ大きくなるようにふっています。まるで逆(Inverse)です。実のところC尺とD尺だけあれば掛け算も割り算もできますし、だからこそ3つ以上の数を掛ける時には3つ目の数を掛ける時にD尺を使うというテクニックにも応用される訳ですが……。
 CI尺は掛け算と割り算を統一的な操作で行うためのものと言っていいでしょう。掛け算の時にCI尺を使うことで、「D尺を基準にする。D尺の数字とC尺かCI尺の数字をあわせ、C尺かCI尺の1に対応するD尺の値が答えになる。」ということで統一されます。掛け算のC尺でやろうとするとD尺の数字にあわせるのはC尺の数字ではなく「1」となりC尺の数字のところに対応するD尺の……ということになりますね。
 DI尺は逆数の計算に便利
 ちなみに逆方向にふってある尺はもとのsomething尺に対し「somethingI尺」となっているはずです。
 

A尺 B尺

 「1〜1(10の意味)〜1(100の意味)」とふってあるもの。D尺を2分の1に縮小したものをつなげたものです。そしてこれはD尺の左の1とA尺B尺の左の1とが一致させてあります。これは右端が「10」と「100」になることで想像できるように「D尺の2乗」を意味します。
 

K尺

 「1〜1(10の意味)〜1(100の意味)〜1(1000の意味)」とふってあるもの。D尺を3分の1に縮小したものをつなげたものです。そしてこれはD尺の左の1とK尺の左の1とが一致させてあります。A尺B尺が2乗なら、こちらはD尺の3乗。
 

CF尺 DF尺 CIF尺

 C尺D尺CI尺を真ん中あたりで切ってしまい、左と右を入れ替えたものです。ですから1が真ん中。
 C尺D尺は1〜3くらいが左半分、4〜10くらいが右半分になっていますが、D尺の右半分4〜10にC尺の左半分1〜3をあわせようとすると、だいぶん引き出さなければならないので、D尺の左半分にC尺の右半分を合わせることになれば引き出す長さが少なくて済むという次第。
 単純な引き算で説明するなら
9−2だと

              0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
              | | | | | | | | | | |

| | | | | | | | | | |
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

と、7目盛引き出さなきゃいけないのを

5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5
| | | | | | | | | | |

      | | | | | | | | | | |
      5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5

3目盛引き出して終わりにしようというためのもの。

 ちなみに円形だとこのような観点は発生しません。
 

L尺

 実は1〜10まで等間隔に区切ったもの。
 「指数の小数点以下の部分」を求めるのに使います。
 

S尺

 A尺と組み合わせると三角関数のsinを求めることができるように目盛ってあります。
 

T尺

 D尺と組み合わせると三角関数のtanを求めることができるように目盛ってあります。
 

ST尺

 三角関数のsin及びtanのうち6度以下の部分に使えるように目盛ってあります。
 ちなみに6度以下だとsinとtanはほとんど同じだそうで……。
 

LL尺

 L尺を自然対数eで切断した尺。
 自然対数となじみがなければ使わないよな〜。
 

簡単な製品情報

手元にある資料などから……。

ヘンミ計算尺株式会社

 東京都千代田区神田駿河台4−4
 電話東京253−2631
(電話番号が3桁だってことで少なくとも平成2年以前だってことがわかる……。)
 ……ちなみに同社はもはや計算尺の生産から撤退したとのうわさがあります。

P45S 全長23cm A C CI CF D DF K L SI TI
251  全長25cm A B C CF CI CIF D DF DI K L LL1 LL2 LL3 S ST T
40RK 全長25cm A B C CI D K L S T
34RK 全長13cm A B C CI D K L S T
30   全長10cm A B C CI D L S T
32   30のカーソルがレンズになっているもの
 

株式会社コンサイス 計算尺研究部

 東京都江戸川区平井2−16−23
 郵便番号132
 電話3685−0811

円形計算尺
480 直径11cm A B C CI D K L
           年数、月日 日数 週数 和暦西暦対照七曜表付
300 直径11cm A B C CI D K L LL1 LL2 LL3 S ST T1 T2
270N       A B C CI D DI K L S ST T1 T2

(初稿2002.5.20)


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