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原付?

法律の世界では,同じ語なのに,別の法律で違う意味に使われることがあります。
バイクの世界だとたとえば「原付」がこのパターンです。

まずなじみのある方では「道路交通法」
「原付」は「原動機付自転車」を略したものですが,道路交通法2条1項10号で,原動機付自転車について,次のとおり定義されています。
「内閣府令で定める大きさ以下の総排気量又は定格出力を有する原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車であつて、自転車、身体障害者用の車いす及び歩行補助車等以外のものをいう。」
ちなみにここでいう「内閣府令」というのは,道路交通法施行規則のことで(昭和35年12月3日総理府令第60号。現在「総理府」は「内閣府」となっている。)その1条の2で「道路交通法(昭和35年法律第105号。以下「法」という。)第2条第1項第10号の内閣府令で定める大きさは、2輪のもの及び内閣総理大臣が指定する3輪以上のものにあつては、総排気量については0.050リツトル、定格出力については0.60キロワツトとし、その他のものにあつては、総排気量については0.020リツトル、定格出力については0.25キロワツトとする。」としております。
さらに「内閣総理大臣が指定する3輪以上のもの」については,平成2年12月6日総理府告示第48号で,「車室を備えず、かつ、輪距(2以上の輪距を有する車にあっては、その輪距のうち最大のもの)が0.50メートル以下である3輪以上の車及び側面が構造上開放されている車室を備え、かつ、輪距が0.50メートル以下である3輪の車」としております。

これを組み合わせるとこうなります。
話をガソリンエンジンに限定すると
「排気量50cc以下の車」だということが大前提になり,50ccを超えるのは「原動機付自転車」には絶対に入らないことになります。
さらに,次のものが除かれます。

こうして道路交通法でいう「原動機付自転車」の定義が決まります。
ちなみに,50ccを超えるバイク,スクーターの類は,400cc以下が「普通自動二輪車」,400ccを超えると「大型自動二輪車」になります(道路交通法3条)。道路交通法上は普通自動二輪車も大型自動二輪車も道路交通法2条1項9号の「自動車」となり,原付とあわせて道路交通法2条1項8号の「車両」ということになります。

 この部分,排気量だけで整理すると,こんな感じです。
「車両」+「自動車」+「大型自動二輪車」400cc超
    |     |
    |     +「普通自動二輪車」50cc超〜400cc以下
    |
    +「原動機付自転車」50cc以下

「あれ?じゃあ「原2」「原付2種」って何?」ってことになりますよね。
ここが今回の話のキモになります。「法律によって同じ語が違う意味に使われる」というやつです。「原付2種」というのは「道路運送車両法」の話なのです。「道路運送車両法」というのは,車両に規制をかけることで交通の安全を確保する目的で,たとえばある種のものは登録しないと道路を走れませんよとか,車検も受けないとだめですよということを定めた法律です。
道路運送車両法では2条2項で「この法律で「自動車」とは、原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽けん引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、次項に規定する原動機付自転車以外のものをいう。」,3項で「この法律で「原動機付自転車」とは、国土交通省令で定める総排気量又は定格出力を有する原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽けん引して陸上を移動させることを目的として製作した用具をいう。」としています。そして3項でいう「国土交通省令」とは,道路運送車両法施行規則のことで,1条1項1号で「内燃機関を原動機とするものであつて、2輪を有するもの(側車付のものを除く。)にあつては、その総排気量は0.125リツトル以下、その他のものにあつては0.050リツトル以下」とありますから,ガソリンエンジンの二輪車に限定すれば,125cc以下が原動機付自転車になります。そして,1条2項で50cc以下が第1種原動機付自転車,それ以外が第2種原動機付自転車とされます。
そうです。「原2」「原付2種」という言葉は,道路運送車両法による定義だったのです。
ちなみに,125cc超えは「自動車」なのですが,道路運送車両法3条で自動車をいくつかに分類しており,その基準は道路運送車両法施行規則別表第1より,2輪車について排気量だけでいうと250cc以下が「軽自動車」250cc超が「小型自動車」になります。

道路運送車両法ではこういう整理です。

「道路運送車両」+「自動車」+「小型自動車」250cc超
        |     |
        |     +「軽自動車」125cc超〜250cc以下
        |
        +「原動機付自転車」+「第2種原動機付自転車」50cc超〜125cc以下
                  |
                  +「第1種原動機付自転車」50cc以下

道路交通法と道路運送車両法の用語を排気量で区別するとこういうことなのです。

400cc超
 道路交通法の「大型自動二輪車」,道路運送車両法の「小型自動車」
250cc超〜400cc以下
 道路交通法の「普通自動二輪車」,道路運送車両法の「小型自動車」
125cc超〜250cc以下
 道路交通法の「普通自動二輪車」,道路運送車両法の「軽自動車」
50cc超〜125cc以下
 道路交通法の「普通自動二輪車」,道路運送車両法の「第2種原動機付自転車」
50cc以下
 道路交通法の「原動機付自転車」,道路運送車両法の「第1種原動機付自転車」

ちなみに……。
現在は,道路交通法では「普通自動二輪車」と「大型自動二輪車」に分かれていますが,かつでは「自動二輪車」という1つのカテゴリーでした。一方で主に若者のバイク事故が問題視されたことからバイクの免許について,本来は「自動二輪車を運転できる免許」ですべての排気量の自動二輪車を運転できるところ,道路交通法91条の「公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めるときは、必要な限度において、免許に、その免許に係る者の身体の状態又は運転の技能に応じ、その者が運転することができる自動車等の種類を限定し、その他自動車等を運転するについて必要な条件を付し、及びこれを変更することができる。」を根拠に,運転できる自動二輪車の範囲を「125cc以下に限る」「400cc以下に限る」と限定することにし,125cc以下の自動二輪車を「小型(自動二輪車)」400cc以下の自動二輪車を「中型(自動二輪車)」と称して免許証にもそのように記載しました。「中型限定」「小型限定」というのがそれで,特に自動二輪車で中型限定を「中免」,400ccを超える自動二輪車を運転できるための作業を「限定解除」と呼んでいたのです。現在は自動二輪車に「普通自動二輪車」「大型自動二輪車」の区別ができましたので,400ccを超える自動二輪車を運転できるようになるための作業を「限定解除」と呼ぶことは適当ではなくなったのですが,いまもある一定の年代の人がつい「中免」と言ってしまうように「限定解除」と言ってしまうことはあるように思います。
なお,最初125ccまでの普通自動二輪車を運転できる免許をとると「普通二輪自動車免許(普通二輪は小型二輪に限る)」となりますが,この限定を外して400ccまで運転できるようにする作業は「限定解除」となりますし,いわゆるAT車しか運転できない免許だと「(普通二輪はAT車に限る)」となるところ,この限定を外してマニュアル車も運転できるようにする作業もまた「限定解除」となります。限定解除というのではそのどちらを指すのか区別はできないし,さらに昔の限定解除と間違う可能性すらある状況なのです。
……「小型限定解除」「AT限定解除」とかいう表現がポピュラーになってくれると状況は変わるのでしょうが……。

(2016.8.21.)