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10 執行猶予と保護観察と仮出獄

※当たり前だけど少年法の話はしてないからね(笑)
 さて日本の刑法では刑罰の目的に「制裁」という意味に加えて「矯正」という意味も加味されており、本人の矯正に役立つのであれば、有罪であっても直ちに刑務所に収容するのではなく、社会内で更生の機会を与えるという意味で、執行猶予の判決がなされることがあります。これに対し執行猶予が付されない判決を実刑判決と呼んでいます。
 この執行猶予については条件があります(25条)。まず対象となる判決は「3年以下の懲役、3年以下の禁錮、50万円以下の罰金」に限られます。これ以上重い判決には執行猶予はつけられません。前に懲役か禁錮の裁判を受けたことが全くないか、懲役か禁錮の刑を受けてからある程度の年数がたっているとか(実は5年なんだけど起算点が難しいんでここでは省略)、前回の懲役か禁錮の刑の執行猶予中の犯行で今回の刑が「1年以下の懲役か1年以下の禁錮」という判決であること(再度の執行猶予と呼ばれる)が必要です。
 執行猶予の判決が出ますと、たとえ身柄を拘束されたまま裁判を受けていた場合でも、その時点で釈放されます。そして社会に戻り執行猶予の期間中何もなければそれで終わり、その判決によって実際に刑務所に入ることはなくなるのですが……。仮に何か犯罪を犯しますと、それがたとえスピード違反であっても道路交通法違反罪なのですから、再度の執行猶予がつかない限り、後の犯罪で実刑判決が出る他、執行猶予についても取り消されて、合計した年数刑務所に入らなければならないことになります。例えば覚せい剤を使って懲役1年6か月3年間執行猶予の判決を受けた者の場合、もし3年間犯罪を一切犯すことなく無事に経過すれば、もうこの覚せい剤使用で刑務所に行って1年6か月間懲役刑を受けるということはなくなります。しかし、この執行猶予期間中に再度覚せい剤を使って捕まりますと、再度の使用で例えば懲役1年2か月の実刑判決が出る他、執行猶予も取り消されることから最初の判決の分1年6か月をたして合計2年8か月刑務所に入らなければならないことになります。また覚せい剤ではなく、交通事故を起こして他人にけがをさせると自動車運転過失致死傷罪が問われるわけですが、自動車運転過失致死傷罪について禁錮1年3か月が相当と判断されると、これは「再度の執行猶予ができるのは1年以下の懲役か禁錮」という制限にひっかかって執行猶予はつけられず(=実刑)、さらに前の覚せい剤使用についての懲役1年6か月も執行猶予が取り消されてその分刑務所に入る=合計2年9か月刑務所に入ることになります。ちなみに、スピード違反だと道路交通法違反で6か月以下の懲役または10万円以下の罰金になりますが、懲役6か月を選択した場合には、再度の執行猶予が可能です。(ただしこれは「執行猶予も可能」ということであって、いろんな事情を考慮して、実刑にすることもできますし、実刑にすれば当然前の覚せい剤使用についての執行猶予も取り消されます。)
 さて執行猶予を付けた場合、裁判所は「保護観察」を付けることができます。保護観察というのは少年法にも定めがありますが、成人の場合は少年とはシステムが異なっています。あくまで裁判所がそのように判断した時にだけ付くものです。どのような時につけるかというと、まず法律上絶対につけなければならない場合があります。それは前にも述べた「再度の執行猶予」の事案、すなわち執行猶予中の犯行だけれども「1年以下の懲役か1年以下の禁錮」という判決に執行猶予をつけた場合です。この場合は選択の余地がありません。もう1つは任意的な場合なのですが、裁判所はおおむね3つの理由でつけます。1つは実刑か執行猶予か微妙だった事案、もう1つは監督する者がいないために適切な指導監督を保護司に依頼する場合、そして最後の1つは「再度の執行猶予を許してはならない」と判断した事案です。最後の1つについて言いますと、保護観察のついた執行猶予の場合にはその猶予期間中に犯罪を行った場合に「再度の執行猶予はつけられない」という規定があります(25条2項ただし書)。ですんで「2回目はないよ」という意味で保護観察をつける場合があるのです。
 保護観察が付けられますと、裁判所から被告人に対し一定の指示をした上で保護観察所に行くように言います。保護観察所では最初に面接し、再度一定の指示をした上で、担当の保護司を決め、定期的な面接指導を続けていくことになります。ちなみにその面接指導の結果次第では、保護観察が仮に解除されるという制度がある一方(25条の2第2項)、遵守事項違反を理由に執行猶予自体が取り消され、刑務所で刑に服さなければならなくなることもあります(26条の2第2号)。もっともこの条項の発動は結構慎重なのが実情なのですが……。
 仮出獄というのは、刑務所に入ったあとで一定の理由があって社会に戻しても大丈夫だと判断された場合に刑務所から出ることができる制度です。ですんで裁判所は関係ありません。仮出獄中に問題を起こさず刑期を終えた場合には、社会に出てても刑務所でつとめたのと同じ扱いになります。一方問題を起こしますとまた刑務所に戻って残りの分をつとめなければなりません。ちなみにこちらでも保護司がつく場合があるようです。

前科

 前科というのは法律用語ではありません。したがって「前科」の意味は国語辞典で調べてくださいということになりますし、当然のように人によって違う意味に使われることがままあります。でも、法律用語ではないのですから、前科の意味を法律にあてはめて理解しようというのは、これは野暮と言っていいでしょう。
 とはいえ、刑事裁判をやっている法廷では「前科」という言葉が検察官から出ることがあります。この場合の前科というのは一定の意味をもっていまして、基本的には「罰金以上の刑を言い渡された裁判の内容。ただし道路交通関係のものを除く。」を指します。その裁判が道路交通関係のものなら、道路交通関係の裁判も含みます。執行猶予がついたかどうか、またその執行猶予が取り消されて実際に刑務所に入ったかどうかは関係ありません。裁判実務では「拘留・科料」の判決を別扱いしていること(実際にも数は少ないはず。短期自由刑の是非の話があって、拘留はきわめてレアケース。)があるのでしょう。
(2009.5.16改訂)

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