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人の身体に危害を加える罪

傷害罪(204条)
 人を傷つけた時に成立する犯罪なのですが,大きく分けて2種類あります。
 1つは暴行罪の結果傷つけたという,暴行罪の結果的加重犯としての傷害罪です。この場合には暴行についての故意があれば十分で,傷つくことについての認識は一切不要です。
 もう1つは行為の形態としては暴行罪にはならないけれども,人を傷つける意図のもとに実際に傷をつけた場合で,この場合には傷つけるところまでが故意として要求されますので,傷つけるつもりがなければ故意がないので傷害罪不成立となります。
 15年以下の懲役,50万円以下の罰金
 なお死なせた場合には傷害致死罪成立
 (2005.1.1改訂)
暴行罪(208条)
 人に対し暴力をふるうと成立します。
 条文が「暴行を加えたのに傷害までいたらなかった」という書き方になっているのが,刑法学では悩みの種になっていますが,ここでは深く考える必要がないでしょう。単純に「暴力をふるえば暴行罪,傷つければ傷害罪」で考えて当面そう困ることはありません。「傷害未遂罪的な要素もある」ことまでわかれば上出来の部類。詳細は教科書をどうぞ。
 2年以下の懲役,拘留,30万円以下の罰金,科料
現場助勢罪(206条)
 傷害罪・傷害致死罪が行われている現場ではやしたてていたような人は,たとえ本人が暴行傷害を行っていなくても本罪によって処罰されます。
 1年以下の懲役,10万円以下の罰金。
過失傷害罪(209条)
 過失によって傷つけた場合に成立します。
 30万円以下の罰金,科料
 ちなみに死なせた場合は過失傷害致死罪ではなく端的に過失致死罪です。
業務上過失傷害罪(211条前段)・重過失傷害罪(211条後段)
 過失傷害罪のうち,業務上要求される注意をはらわなかった場合に成立するのが業務上過失傷害罪,過失が特に重大な場合に成立するのが重過失傷害罪です。ここで言う業務は必ずしも仕事とか営利目的ということを意味しません。反復継続性があって,他人に危害を与える類のものであれば足ります。
 5年以下の懲役,5年以下の禁錮,100万円以下の罰金
 なお,以前は,自動車を運転した結果人を死なせたり傷つけた場合には,業務上過失傷害・致死罪,自転車運転過失傷害・致死罪,危険運転致傷・致傷罪などを適用してきましたが,平成26年5月20日施行の「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が適用されることとなりました。
 その概要はこちら
 一方,道路交通法上は「軽車両」とされる自転車については,業務上過失傷害罪も成立しないとされています。自転車程度では「(定型的に)他人に危害を与えるもの」とは評価されていないのです。
堕胎に関する罪(212〜216条)
 妊娠中に子供をおろした時は堕胎に関する罪を検討しなければならないのですが,「妊娠中の子供の生命を奪う」という点で,「人の生命に危害を加えた場合」として説明しています。詳細はそちらを見てください。
堕胎罪(212条)
 1年以下の懲役
同意堕胎罪(213条前段)
 2年以下の懲役
同意堕胎致傷罪(213条後段)
 同意堕胎罪の結果妊娠中の女性を傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 3か月以上5年以下の懲役
業務上堕胎罪(214条前段)
 同意堕胎罪を犯した者が「医師,助産婦,薬剤師,医薬品販売業者」である場合に刑が重くなる不真正身分犯です。
 3か月以上5年以下の懲役
業務上堕胎致傷罪(214条後段)
 業務上堕胎罪の結果妊娠中の女性を傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 6か月以上7年以下の懲役
不同意堕胎罪(215条前段)
 妊娠中の女性からの依頼や同意がないのに子供をおろす行為をした者に対し成立します。
 6か月以上7年以下の懲役
 未遂処罰あり。
不同意堕胎致傷罪(216条)
 不同意堕胎罪の結果妊娠中の女性を傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 6か月以上10年以下の懲役
遺棄罪(217条)
 老年,幼年,身体障害,疾病のために扶助を必要とする者を,どこかへ強制的に移動させることで,その者の生命身体に危険を発生させた場合に成立します。危険を発生させれば足りるので,なんらかの具体的な被害が要求されるわけではありません。
 1年以下の懲役
保護責任者遺棄罪(218条)
 遺棄罪のうち,その被害者を扶助しなければならない義務を持つ者が遺棄罪を犯すか,置き去りなど必要な扶助を与えなかった場合に刑が重くなる不真正身分犯です。
 3か月以上5年以下の懲役
遺棄致傷罪(219条)
 遺棄罪の結果傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 10年以下の懲役
保護責任者遺棄致傷罪(219条)
 保護責任者遺棄罪の結果傷つけた場合に刑が重くなる不真正身分犯であり結果的加重犯です。
 3か月以上10年以下の懲役
逮捕監禁致傷罪(221条)
 逮捕や監禁を犯して傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 3か月以上10年以下の懲役
 参照 逮捕監禁罪
強盗致傷罪(240条)
 強盗犯が傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 無期懲役,6年以上の懲役
 未遂処罰あり
 参照 強盗罪
建造物損壊致傷罪(260条)
 建造物や船舶を破壊しもって傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 10年以下の懲役
 参照 建造物損壊罪
ガス漏出等致傷罪(118条2項)
 ガス・電気・蒸気の漏出・流出・遮断によって人の生命・身体・財産に危険を発生させ,そのことで人を傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 10年以下の懲役
 参照 ガス漏出等罪
往来妨害致傷罪(124条2項)
 道路や交通に使う河川その他の水路を壊したりふさいだりすることで通れなくし,そのことで人を傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 10年以下の懲役
 参照 往来妨害罪
浄水汚染致傷罪・浄水毒物等混入致傷罪(146条)
 浄水を汚染したり浄水に毒物やその他健康を害する物を入れるなどしてその結果人を傷つけた場合に成立する結果的加重犯です。
 10年以下の懲役
 参照 浄水汚染罪浄水毒物等混入罪
強制わいせつ罪(176条)準強制わいせつ罪(178条1項)
 暴行脅迫によって,または心神喪失の状態にすること,もしくは拒否できない状況に追い込むことで(13歳未満の者が被害者である場合にはそういう要件も不要)わいせつな行為をなすと成立します。
 行為の形態によって「準」がつくかつかないかの違いがありますが,結論は一緒です。
 親告罪。
 6か月以上10年以下の懲役
 未遂処罰あり。
強制わいせつ致傷罪(181条1項)
 強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪の結果傷つけたり死なせたりした場合に成立する結果的加重犯です。
 無期懲役,3年以上の有期懲役
強姦罪(177条)・準強姦罪(178条2項)
 暴行脅迫によって,または心神喪失の状態にすること,もしくは拒否できない状況に追い込むことで(13歳未満の者が被害者である場合にはそういう要件も不要)本番にいたると成立します。構成要件がこのようになっていることから加害者は男性,被害者は女性の場合しか成立しない犯罪で,女性は男性の共犯という形でしか強姦罪は成立しないとされています。
 行為の形態によって「準」がつくかつかないかの違いがありますが,結論は一緒です。
 親告罪。
 3年以上の有期懲役
 未遂処罰あり。
強姦致死傷罪(181条2項)
 強姦罪・準強姦罪の結果傷つけたり死なせたりした場合に成立する結果的加重犯です。
 無期懲役,5年以上の有期懲役
集団強姦等罪(178条の2)
 2人以上が犯行現場において共同して強姦罪を犯した場合に成立します。
 4年以上の有期懲役
 未遂処罰あり。
集団強姦等致死傷罪(181条3項)
 集団強姦等の結果傷つけたり死なせたりした場合に成立する結果的加重犯です。
 無期懲役,6年以上の有期懲役
特別公務員職権濫用致傷罪(196条)
 裁判・検察・警察の職務を行ったりそれを補助する者が,その職務を行うにあたって,被告人・被疑者・その他の者を逮捕,監禁しその結果傷つけた場合に成立する不真正身分犯であり結果的加重犯です。
 2年以上の有期懲役
 参照 特別公務員職権濫用罪
特別公務員暴行陵虐致傷罪(196条)
 裁判・検察・警察の職務を行ったりそれを補助する者が,その職務を行うにあたって,被告人・被疑者・その他の者に対し暴行・陵辱・加虐の行為を行い,その結果傷つけた場合に成立する不真正身分犯であり結果的加重犯です。また法令により拘禁された者を看守しもしくは護送する者が,その拘禁された者に対し同じようにした結果傷つけた場合も成立します。
 2年以上の有期懲役
 参照 特別公務員暴行陵虐罪
(2014.6.10改訂)
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