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海事代理士試験ってどんな試験?

 まず海事代理士がどんな仕事をしているかについては、何か参考書を読むなり、海事代理士の方が開いているホームページを見てくださいませ。
 なにせあたしは海事代理士ではないから……。実感をもって語ることができませんわな。

まずは試験科目の紹介だ

 海事代理士試験は筆記試験と口述試験に分かれます。
 筆記試験の科目は次のとおり。

  1. 一般法律常識(2時間)
    1. 憲法 10点
    2. 民法 10点
    3. 商法(海商法) 10点
    4. 国土交通省設置法 10点
  2. 海事法令(1)(1時間)
    1. 船員法 20点
    2. 船舶職員法 20点
  3. 海事法令(2)(2時間)
    1. 海上運送法 10点
    2. 港湾運送事業法 10点
    3. 港則法 10点
    4. 海上交通安全法 10点
    5. 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律 10点
  4. 海事法令(3)(2時間)
    1. 船舶法 20点
    2. 船舶安全法 20点
    3. 船舶のトン数の測度に関する法律 10点
    4. 造船法 10点
 合計が190点となり、60%正解の114点が合格点となりますが、もし全科目を受験した者の点数の平均点が60%を超える場合には、その平均点まで合格点があがることとなります。
 で、筆記試験に合格した者が、口述試験を受けられるという次第。口述試験の科目は、筆記試験の20点科目であるところの船員法、船舶職員法、船舶法、船舶安全法の4科目です。

 で、実際のところ筆記試験の合格点って何点なんでしょうね?

試験の中身を考えてみる

 ここでは60%正解で合格するってシミュレーションをしてみましょうか?
 そうするとこんなことが言えたりするのです。
「海事法令の11科目で8割正解だと一般法律常識が全滅でも120点になるから合格。
 仮に70%133点が合格点だとしたって一般法律常識が4割だと136点で合格。」
 ここだけ読むと「8割正解なんて無理だ」なんて思われるかもしれません。
 ……でもそこが落とし穴だと思うんですよ。

 ここで平成13年試験を例に検討してみます。
 筆記試験のパターンを分類すると、
A1……文中の空欄を別途示された語群から選んで埋めさせるもの
A2……文中の空欄にあてはまる言葉を書かせるもの
B……正誤問題
C……選択問題
D……言葉や問題文を説明させるもの
になるのですが、A1やA2って海事代理士試験の場合、法令に使用されている用語がまんま出題されています。これは何を示しているかと言えば、「法令の当該条文を暗記していれば勝ち、暗記できていなければ負け。」という単純明快な原理の採用を意味しているのです。B、Cだって条文そのまんまではないにせよ、さりとてそんな法的論理の展開を要求している訳じゃありません。大事な概念を覚えていて、その記憶と逢っているかどうかで決まってしまう。
 具体的に言いますと……

  1. 憲法 A2−4個2点 B−10個5点 D−2個3点
  2. 民法 B−10個10点
  3. 商法(海商法) A2−4個2点 B−14個7点 D−1個1点
  4. 国土交通省設置法 A2−5個5点 D−5個5点
  5. 船員法 A2−5個5点 B−5個5点 D−5個10点
  6. 船舶職員法 A2−12個12点 B−5個5点 D−1個3点
  7. 海上運送法 A2−5個5点 B−5個5点
  8. 港湾運送事業法 B−10個10点
  9. 港則法 A1−10個10点
  10. 海上交通安全法 A1−10個10点 
  11. 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律 A1−5個5点 B−5個5点
  12. 船舶法 C−10個20点
  13. 船舶安全法 A2−10個10点 A1−10個10点
  14. 船舶のトン数の測度に関する法律 A1−10個10点
  15. 造船法 A2−5個5点 B−5個5点
というのが平成13年の試験だった訳です。で、海事法令について見てみると合計150点のうち、結局条文を丸暗記してそのままあてはめればいい穴埋め問題で82点、条文を丸暗記してそれと合致しているものを選べばいい正誤問題で35点が取れてしまい、これだけで78%です。残りの問題だって、船員法の10点は条文の丸暗記ではないけど、箇条書きに整理して覚えればいいだけの問題。船舶法も暗記した条文と同じものを選べばいいだけの問題で、まがりなりにも条文を自分なりに理解できて、実際の例にあてはめる、その思考過程を問う問題というのは、乗船履歴を換算させる船舶職員法の1問3点だけなんです。そりゃあ全くの新作問題も出ますが、そんな問題はたいてい他の人もできない訳でして、過去の問題を完璧に覚えるだけでおそらく7割は超しますし(「これ私の使った問題集には出てないぞ」ってえのは10個となかった。)普通は他の問題だってちょっとはできるでしょう?覚えたはずのことを多少ケアレスミスで落としたとしても、記憶だけしっかりしていれば海事法令の8割は夢じゃないし……、合格点が70%くらいまできたってなんとかなります。
 実際丸暗記・棒暗記は大の苦手で、しかも試験の1週間前にようやく正解を作ったにすぎず、その後だって、問題のチェックを1日に2〜3科目やるのがせいいいっぱいだから、10回と見ているはずのない私だって、今回の海事法令ではなんとか7割取っているんで……。きちんとまじめに記憶に励んでいる人なら8割くらいは楽勝だと思うんですね。

記憶に頼る試験って……

 このように海事代理士試験の筆記試験は、法律についての試験ではあるのですが、大学法学部における法律学の試験とは性格が全く異なるのです。むしろ法律分野についてのクイズ番組(昔の「カルトQ」がある意味一番近いかもしれない……。)で予選を突破して本戦に出場することに似ているのです。(別に本戦で優勝しなくてもいい。)
 実際、それなりの法令集を持ち込めば、原理的には正解が書ける試験な訳でして……。

 だとすれば必要な条文は丸暗記して、過去の問題で丸暗記したことを再現する、そのトレーニングをきちんとやれば、合格できるし、いくら勉強してもこのトレーニングを怠れば合格できないということになるのだと思うのです。

 でも個人的な感想を言わせてもらえば、暗記に頼った試験に合格したことで、「法律学がわかった」とは言ってほしくないなあ……。
 法律学って、知識量で勝負する学問ではないからね〜。実際司法試験の論文式試験は六法貸与だということ、大学法学部の法律学の各科目の試験はたいてい六法持ち込み可、時にノート持ち込み可、場合によってはなんでも持ち込み可すらある(当然試験は資料を持ち込んでそれを写せば終わりなんて問題なんかでない訳です。)ってことは、記憶にとどめておいてほしいなあ……と個人的には思っているのです。
 もっともそこはよくしたもので、実際に開業するとなれば、試験のための丸暗記だけで飯が食える訳ではないし、よほど勉強が必要になります。そして「ある事項を知っているかどうかが大事なのではなく、どこそこをどう調べてこう手配すればうまくいくということを知っていることこそが大事なのである」って気付いてもらえるんで……そう心配することもないのかな……。

ちなみにどうやって覚えるの?

 だからあたしって丸暗記・棒暗記ものって苦手なんだってば〜。いい方法あったら教えてくれ……。
 ちなみに今回私がとった方策は、時間がなかったこともあって、

  1. 問題集に答を赤字で書き込む
  2. ひととおり読んで頭にたたきこむ
  3. 赤いシートをあてると赤字の部分は消えるので、きちんと正解を出せるかチェックする
というものです。
……あんまり変わったことをやっているとは思えないなあ……。
 仮にポイントがあるとするならば
「3つ数えて出てこなければ覚えたものとはみなさない」
「記号を選ぶ問題でも答をきちんと書く」
の2点ですかね……。
 前者については「奇跡の英単語」シリーズの長崎玄弥先生が言っていることで、「覚えた英単語は1秒以内に出て来る必要がある。1秒以内に出てこない英単語は使えないし覚えた内には入らない。」というのは私の実体験に即しても正しいと思っております。
 条文に使われている用語については、単語と違うんで若干時間がかかってもいいとは思うんですが、それにしたって3秒だと思いますよ。3つ数えて出てこなかったらさくさく答を見て覚えちゃってください。うだうだ悩んでいる間に次に進む。大事なのは何回も繰り返すことです。1個に1分もかけて、たまたま正解を出しても、その問題について次にやった時に正解を出すとは限らないし、3秒だと10個くらいはできる計算なんだから、10倍早くチェックを終わらせることができます。そうすると、同じ時間で10回チェックできる訳でしょう?(あくまで単純計算だけど。)正解を出すつもりで10回連続で間違うのは、そりゃあ一種の才能。だけど、前のことをすっかり忘れた時期にまたやるってことだと、10回連続で間違うのははっきり言って容易です。
 このあたりの話は、前出「奇跡の英単語」シリーズなり(ちなみに光文社のカッパブックスシリーズのはずです)、晴山陽一「英単語速習術」ちくま新書なりをどうぞ。
 後者は簡単な話。
 ……記号覚えたってしょうがないやん……。

 ちなみにここまで読んできた人はある程度想像つくと思うんですが、私、ある問題集が正解を載せないのは不親切ここに極まれりと評価している立場です。大事なのは暗記なんですよ。だから正確な答を覚えさせるのが最大目標のはず。そこを自分で調べなきゃいけないのは、覚える前までの余計な作業を要求する点で最大の誤りだし、何が正解かについての自信が持てないという点でも問題だと思っています。
 同様に試験用のノートを作るのも、どちらかと言えば反対。そんなものを作る間に1つでも条文覚えた方がいいんです。ノートは海事代理士試験の場合「覚えるための道具」という割り切りが絶対に必要で、そこを勘違いしていると、「立派なノートを作っているのになぜか受からない」ってことを不思議に思っちゃう……。ノートは記憶のための道具なんで、記憶に役立たないノートはいくら労力をかけても無用の長物だと考えています。
 ……などと過激なことを書いてきましたが、それでもなぜ堂々と「私自身は今回は落ちた」と言えるのか?
 その理由は「合格点がわからない」ということにもあるのですが、その最大の理由は、「暗記という名のトレーニングが全然足りてない」ことにあります。だから「暗記をきちんと仕上げておけば」来年は受かるだろうね……というオチだったのです。

 そうなるともう私がここから先で書くことについて、なぜ書いたかを想像できるかもしれません。
 私は丸暗記・棒暗記が苦手だから、いかにして理解しようとしたか、理解することで暗記の助けにしようとしたか、その思考過程を明らかにすることが、私と同じく暗記物を苦手にしている人の、なんらかの助けになるのではと考えたからなんです。
 ……だから暗記のできる人は、こんなの読んでいる間に暗記しちゃいなさい!って。


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