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6 未遂罪

 構成要件はたいてい「……した者は」というように、ある行為をすることもしくはしないことを処罰する形で書かれており、その書かれていることにあてはまらないようにすることが可能であったにもかかわらずあえてしなかったことを処罰の究極的な根拠としていることは既に述べたとおりです。さて、じゃあなぜそのことが構成要件に書かれているのかという意味における処罰の根拠はなにかといえば、これは「その行為によって起こる何らかの結果を望ましくないと判断している」ことによります。この間にはちょっとしたずれがありますね。前者の関係では構成要件に書かれたことをすればそれは犯罪の第一要件をクリアしたことになる一方で、結果がともなわないと犯罪として処罰する理由がない……。
 この点を日本の刑法はどう処理しているかというと、行為だけではなく結果の発生までを折り込んだ形で記述することにより、結果の発生がなければ構成要件に該当にしないということにする原則を採用しています。それを明らかにしたのが刑法44条の「未遂を罰する場合は、各本条で定める」です。たいていは構成要件に結果の発生を要求する旨書くので、結果が発生しなければ犯罪にはならない、だけど刑法44条にあるように、「これは未遂も処罰するよ」と書いてあれば未遂でも処罰することになるという次第。
 これの例外は、構成要件の書き方や解釈によって犯罪の成立に結果の発生を要求していないとされる犯罪です。この例外にあたる場合には、未遂処罰の規定がなくても処罰される訳ですが、構成要件が結果の発生を要求していないということは、行為だけで既に犯罪が成立しているとも言えるのです。
 あと、間違いやすいところなんですが、行為があって結果も発生しているんだけど行為と結果の間に因果関係が認められない場合があります。有名なのは詐欺罪で、詐欺罪では2段の因果関係が必要だとされています。すなわち「だます行為があった結果だまされてしまうこと」「だまされたがゆえにお金をあげること(もしだまされなかったらお金をあげることはない)」の双方が必要なのです。で、有名な例というのは後段の方、すなわち「詐欺だって気づいたけどかわいそうなので「これで真人間になるんだよ」と言ってお金を渡した。」ような場合、これは2段の因果関係のうち後段が認められないことから結局全体の因果関係は存在しないことになります。したがって本来は犯罪が成立しない、だけど詐欺罪には未遂罪の定めがあって、だます行為があることから詐欺未遂罪が成立することになります。お金をあげていても未遂罪なんですね。もう1つの有名な例は、因果関係の存在が証明できない場合です。構成要件にあたる行為はしている、結果も発生している、だけどその行為によって発生した結果なのかどうかについては合理的な疑いが残る……ということになると構成要件該当性が認められないことになって、本来は犯罪不成立、だけど未遂処罰規定があれば構成要件にあたる行為はしているので未遂罪が成立するということになるのです。
 さて、構成要件に該当する行為をすれば結果が発生しない場合でも未遂罪として処罰されることはあり得るのですが、何をもって構成要件に該当する行為があったと評価すべきなのかという点については、難しいものがあります。詳細は刑法の教科書を見てください。ここでは「構成要件の一部でもあてはまる行為や構成要件で定められた結果の発生の危険が認められる行為」くらいにしておきましょう。
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