法的性格の目次に戻る  前へ  次へ  ルフィミアネットの本はこちら

占有を失った時

問題の提示

 元々動産質の対抗要件について352条は占有の継続をあげています。しかしながら物権の対抗要件は、「両立し得ない物権相互間」での問題でして、「私はあなたからもらいました」のように前の権利者と後の権利者との関係(前主後主の関係とも言います。Aさんが前の権利者でBさんが後の権利者であることは両立しますから、対抗関係ではないのです。)であったり、「あなたは不法侵入者でしょ」というように、無権利者と権利者との関係(誰かが権利者で別の誰かが無権利者なのはむしろ当たり前で当然両立します。)である場合には対抗要件の問題ではありません。
 ところがなぜか353条は占有を奪われた時の対抗手段として「占有回収の訴え」しかできない、質権に基づく物権的請求権としての返還請求は認めないし、占有回収の訴えが「占有者の意思に反して占有を失った場合」に限定されることから、この要件を満たさない場合、すなわち自発的に処分した場合、なくした場合、だまされた場合などは占有を回復する手段がないこととなるのです。
 そうなると「純粋に対抗要件の問題なのか?」という疑問が出てくるでしょう。

そこで検討してみるに……

 やはり2つの意見の対立はあるように思います。
 1つは352条の文理解釈で突き進むもの。352条はあくまで対抗要件であるという書き方をしているのですから、文字通りの対抗要件としてとらえるものです。その場合353条は通常は認められるはずの各種訴権について政策的配慮(動産質権が強大化すると第3者に不測の損害が発生しかねない。たとえばAさんが持っているけどもしかしたら動産質権によって回収されてしまうかもしれないってことまで心配しなければならない。)から制限を加えたものだとする意見です。
 もう1つは353条を政策的配慮ととらえず、留置的効力を重視して、留置的効力がないような場合には質権は機能しないと考えるものです。この場合占有の継続は単に対抗要件ではなく、第3者との関係では効力の存続要件と考えますし、当事者との関係でも質権成立の要件のところで述べたとおり成立の要件であり効力の要件だと考えるものです。これはやはり政策的配慮に説明を求めない分、主張が一貫しているのですが、権利質には留置的効力がないこととの理論的整合性がここでもやはり必要になると思われます。

しかも質物が質権設定者に戻ってしまった……

 先の対立ではここでも差を生じさせます。とはいえ、質権者が任意に質権設定者に対し質物を引き渡した時は、もはや質権が消滅することについては争いがありません(※)。問題はもっぱら質権者が任意ではなく質物の占有を失った時に、質権設定者が占有を取得するにいたった場合。留置的効力を重視するならやはり質権は消滅するという結論になりますし、対抗要件だということを重視すれば当事者間では対抗問題にならない以上質物の引き渡しを求めることができるということになるでしょう。

 もっとも不動産質において、質権者がその使用収益権に基づいて質権設定者(=所有者)に使用収益させる場合、これは使用収益権に基づくもので質権設定者だけ除外して質権を消滅させる程の理由はないとして、質権は消滅しないと解するのが通説判例の立場です。そうするとこの場合外見だけでは抵当権と不動産質権の違いはないこととなります。

営業質屋の特則

 営業質屋が質物についての占有を失った場合において、その失った理由が災害であったり、質権設定者に帰責事由がない理由によるものであれば、たとえ質権者にも帰責事由がなかったとしても、質権は消滅するし質権によって担保されていた債権も消滅します。

(2004.8.20改訂)

法的性格の目次に戻る  前へ  次へ  ルフィミアネットの本はこちら