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お金を返さなかった時

 お金を返さなかった場合には、質物を返さなくてよいのは既に何回か繰り返してきたとおりです(留置的効力)。ただしお金を返さなかったことが確定していないとだめで、債権がいまだ条件付のままというのでは、そもそも返すべき義務も条件付きのままでして、「返さなかった」とは言えないことは当たり前でしょう。
 さらに質物を売り払ってその代金の中から回収することも認められています(優先弁済)。

・営業質屋における特則  営業質屋において,何かを質入してお金を借りる場合,そのお金を借りる(後で返す)こと自体は民法587条による金銭消費貸借契約であることは間違いありません。しかし,それと質入した何かに対する質権設定だけとは考えていないのが平成23年8月25日名古屋高裁判決です。同判決では,単純な金銭消費貸借契約ではなく,「流質期限までに返済がなければ質物の所有権は当然に質屋に移転する」「質物の所有権が移転すれば,債務も消滅する。」ことをもあわせて合意した「質取引」であると定義しています。
 その結果,お金を返さなかった場合には,質物が質屋に移転すると同時に債務も消滅して清算終了となるのです。

優先弁済を受けられる範囲

 元金・利息・違約金・質権実行費用・質物保存費用・債務不履行による損害賠償・質物の隠れたる瑕疵による損害賠償を含みます。(以下「被担保債権」と言います。)
 ただし、不動産質においては、使用収益が認められる一方で、利息は質権で担保されないと解されています。強行規定ではないので、別段の定めをすることが可能ですが、その合意は登記されないと第3者には対抗できません。また利息については民法361条によって374条が準用される結果、最後の2年分に限定されます。

もし優先弁済を受けてもなお借金が残っていれば?

 その借金が消える訳ではありません。担保がない一般債権として残りますから、さらに債務者に請求することができます。

・営業質屋における特則
 営業質屋の場合,上で述べたとおり,流質によって債務が消滅して清算終了と解されています。
 したがって,「なお借金が残る」というのがあり得ないこととなります。

 なお,この点につき,以前は債務の消滅ではなく責任の消滅と説明してきましたが,上述の名古屋高裁判決が,上告審としての判断であることに鑑み,判例統一のため最高裁が判断するまでの間,当面リーディングケースになると思われますので,「債務が消滅する」という説明に改めました。

質物を売り払う方法

債権質

 民事執行法による(担保権実行としての)債権執行の手続が使えます。
 その他に被担保債権の範囲で質物である債権の債務者に対し請求することができます。金銭債権であれば請求した金額を受け取って一件落着です。金銭ではなく物の給付を目的にしている場合にはその物全部を受け取ることができ、今度はその物に質権が存続することになります。
 被担保債権の弁済期限より前に質物である債権の弁済期限がくる場合には、供託するよう請求できます。供託されれば供託金について質権が存続することになります。
 倉庫証券・船荷証券等の場合、証券そのものを動産質に準じて、また商品受領後に当該商品を動産質に準じて売却することとなります。

不動産質

 民事執行法による(担保権実行としての)不動産競売の手続が使えます。抵当権の規定が準用されます。

動産質

 民事執行法による(担保権実行としての)動産競売の手続が使えます。
 果実を債権回収にあててもかまいません。
 その他に、債務者に対して通知をした上で裁判所に対し鑑定人の評価に従って質物をもって弁済にあてることを請求することもできます。これは簡易な弁済充当と呼ばれています。もっとも「競売では費用倒れに終わりそう」「わざわざ競売しなくても相場がきちんと決まっている」というような正当事由が必要です。

物上保証の場合

 債務者以外の者が自分の物に担保を設定する場合を物上保証といい、物上保証人自体は債務者ではないから弁済の請求も(担保物以外への)強制執行もできないことは今まで述べたとおりですが、物上保証人が自ら弁済することは可能です。また自ら弁済しなかった場合でも担保物を失えば損害が発生したこととなります。これらの出費については債務者に請求できます。その詳細は保証債務に関する規定が準用されるのでそれによります。

特に流質契約について

 動産質において認められる簡易な弁済充当よりさらに簡易な方法として「鑑定人に鑑定させない、裁判所に請求しない、当事者の合意だけで質物の所有権を移動させてしまう。」という方法が編み出されています。このうち債権の弁済期限前、特に質権設定時にこういう内容を契約した場合、「流質契約」と呼びます。流質契約は禁止されています(強行規定)。これは力の弱い債務者から、貸金より相当多額になる価値のある物を流質させること、例えば10万円の価値のある物を、お金がないことを見透かして1000円程度で質にとり、その返済がないからといってその物を自分の物にしてしまうのでは9万9000円弱もの利益をわずか1000円で手に入れたことになる、これは暴利行為ではないかというので、禁止することにした政策的配慮です。弁済期限を過ぎた後で質物で清算する代物弁済であれば、弊害は少ないとして禁止されてはいません。

・商法の特則
 商行為によって発生する債権を担保するために設定された質権の場合には、流質契約も許されます。もっとも流質契約がなければ認められません。

質権者はまずまっさきに質権を実行しなければならないか

 抵当権については「抵当権から先に実行」という制限がありますが、質権にはありません。ですから質物以外の財産について一般債権者として競売等の手続をとることができます。

(2013.6.14改訂)

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