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事後法による処罰の禁止は絶対ではない

林信吾「反戦軍事学」朝日新書
帯に
「軍事について正しい知識を持てば,戦争賛美などできなくなる,と思うから」
という本文中の一節があげられているんだけど
その点での軍事的知識の点で勉強になるのはもちろんのこと
いわゆる間違った右っぽい人,間違った愛国心の人を
論理的に明晰に批判しているあたりは
とても読んでいて気持ちがいいんで
ぜひ1冊お買い求めを。

でだ……。
まあ専門外だからしょうがないとは思うものの
その明晰さゆえに残念だったのが
極東国際軍事裁判(いわゆる東京裁判)のくだり。
p190あたり。
「法理論的に言えば,こんな無茶苦茶な裁判はない。……
 いかなる犯罪でも,犯罪が起きた後になってから作った法律(事後法という)で裁くことはできないのは,法理論のイロハである。」
日本では英米法の論理が本当に知られてないなあと思う一瞬。

そう,「common law上の犯罪」をどう説明するの?って
私がよく出すあの話さ。

根底には
「罪刑法定主義」と言った場合の法は成文法を指すのはいいとして
事後法の禁止の「法」を成文法に限定解釈するんですか?
という問題を考えなくてもいい
大陸法系における人権保障の歴史をもう当然の前提にしちゃって深くは考えていないって事情が存在するのさ。

イングランド法では犯罪は必ずしも成文法で決まっているとは限らないし
ゆえに罪刑法定主義における法を大陸法におけるのと同じに「成文法」と解して
イングランドには罪刑法定主義はない(けどそれは恣意的な処罰を許すものではないから全然困らない)と説明する学者と
罪刑法定主義はあると説明する学者がいる。
後者の立場はおそらく「法」を「成文法」には限定していない。
イングランド法の特質から言って「法」を「成文法」に限定するのがむしろ不自然だからだ。
そうすれば結論から書けば
(途中の過程はきっと次回作lnpp2に入っているはずだから買って読んでね(はあと))
「「良き古き法」は既に存在しており
 それを裁判所が発見して適用したにすぎない」
というイングランドのcommon law裁判所の大前提の下に
「良き古き法」によって罪刑が法定されていると説明するがゆえに「罪刑法定主義」はあることになる。

ちなみにこの点,個人的には実は「罪刑法定主義はない」説の方が理論的にきれいだと思っている。
でも今日は本筋ではないので省略。

で,この後説に立った際
極東国際軍事裁判も事後法による処罰では全くない
なぜなら「裁判所が発見した(正確に言えば先行するいわゆるニュルンベルク裁判でも示されている)法」は
行為以前に存在しており
その法による処罰だからだ……って話になるのさ。

当然全体として観察した際に「良き古き法」には存在していないという反論や
裁判の形をとった政治的決定にすぎないという指摘に
あれこれ言うものではないんだけどね……。

法律のことをよくわかってない割には
大陸法の発想にどっぷりつかっているよなあ……と思わせる事例だったので
取り上げた次第。

(2013年2月26日 0時06分)


  1. http://gekkan-nippon.com/?p=4804
    東京裁判 フランス人判事の無罪論 買ってみようかなと思いました。
    (2013年9月1日22時17分)

    Comment by 佐藤泰範 — 2015年4月17日23時23分


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