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言葉的法律学縁起

法律学は言葉を大切にします。
言葉を大切にするというのはおよそ学問に共通する特徴かもしれませんが。

ところで「言葉を大切にする」と言っても、大きくわけて2種類の方向性があるんではないか……
なんて最近は思い始めています。
1つは哲学に代表される分野ですね。
先に言葉があってその意味内容を明らかにする。
もう1つは数学における定義のように
有用な概念に名前をつけるというパターン。
これは言葉が後からくるものでしょう。

法律学の主要な分野であることは間違いない「法解釈学」は
「法の意味内容を明らかにする」ことを直接的な任務としています。
制定法主義の国においては、
「法に使われた言葉の意味内容を明らかにする」ことからはじまります。
この点だけとれば「先に言葉ありき」に見えるとは思います。

しかし……。

法解釈学ですら、その教科書には法律には出てこない「言葉」が出てきます。
法解釈は「恣意的に意味を与える」作業ではけっしてありません。
できれば1つ、それが無理でも、できるだけ少ない原理から多くの法に意味を与えることができる
法解釈学はこのことを目指しています。
そのためには、法律に出てこない言葉であっても、
概念として必要であればその概念に名前をつけることは普通に行われます。
(ちなみに「講学上の概念」という言い方をします。)

法律学は「法律」という何物かを研究対象にしている学問です。
その中でも一見すると言葉が先にありそうな法解釈学ですら
実際には「言葉が先にある」学問ではないのです。
法律学一般に広げたら……もう言うまでもありませんね。

法律学は言葉を大切にします。

そして言葉を大切にするということは同時に論理を大切にしているということです。
また法解釈学に戻りますが
拙著「国際法からはじめよう」では「法律学は知識量の勝負である」「法律学は暗記である」という思想を
徹底して排除しています。
その上で「コの字型モデル」
すなわち「現実の問題を抽象化し、抽象化された事実から抽象化された解決を導き出し、それを現実の世界に変形して答を提示する」という思考を、法律学の特徴として提示しています。問題に対して直観で答を出すわけではありません。誰もが検証できる前提と論理で答を出し、それを現実世界に変形させることをその特徴にしています。

さて……。
以前からYukiWikiやperlクイズでお世話になっていた結城浩さんが、プログラマの数学という本で
数学について非常に似たことを述べられておりました。
どのくらい似ているかというと
「結城さんは「国際法からはじめよう」を読んだのか?」
と私が一瞬誤解するくらいに……です。
さらに「数学ガール」(私は日坂水柯さんのまんがの方で読みましたが)では
私に「法律学と数学って方法論が実は同じ?」と錯覚させるような記述が各所に見られました。
「例示は定義ではない」
「数学者は数学の世界を組み立てるために有用な数学的概念を見つけ出しそれに名前を付ける。それが定義。」
「定義が可能であることとその定義が有用であることは別。」
「できるだけ誤解が生じないようにするために数学は言葉を厳密に使う」
「下手をすると意地悪に見えるくらい厳しく考える必要があるんだ」
「どんなつもりで書いたのかを読みとる必要がある」
「必要なのは目だ。でもこの目じゃない。構造を見抜く心の目が必要なんだ。」
……。

数学ガールを見て
「言葉的法律学」というコンテンツは生まれました。
でも数学ガールではないので
ミルカさんもテトラちゃんもいません。
いるのは……「国際法からはじめよう」に登場するまさと先輩とる~ちゃんです。
そしてlufimia.netは「法律学における標準的な情報を提供する」ことを
第1の目標としてはじまりました。
法律学における標準的な情報が「言葉的法律学」に現れれば
それは整理されてlufimia.netに提示されるでしょう。
その意味では「言葉的法律学」は原稿にすぎません。
でも……まさと先輩とる~ちゃんの会話の中に、
法律学は言葉を大切にするということを示していきたいと思っています。
(2009年5月17日 15時17分)


  1. まさと先輩って,すっごく楽しそうに法律学の話をしますよね。
    数学ガールの中にある
    「数式の向こう側に必ずいる。僕達にメッセージを送っている書き手が。数式にはその書き手達の想いがこもってる。その想いを受け取りたくて僕は日々数式と向き合っている。」
    「君は1、ω、ωの2乗の3人が踊っているのが、君にはωのワルツが見えてるかな。」
    みたいなことを考えていたりするんですか?
    (2009年5月29日23時12分)

    Comment by ルフィミア・クリステンセン — 2010年7月14日23時57分

  2. >まさと先輩って,すっごく楽しそうに法律学の話をしますよね。

    それ、聞いた話なんだけど、別の所でもそう言っていた人がいたそうで……。
    本人あんまり意識したことはなかったんだけどね~。

    趣味であるソフトを書いているところなんだけど
    そのソフトの説明として
    「電脳空間を飛び回る情報カード」
    「チャイナドレスを着ためがねっこがトランプのように手にもって広げている」
    なんてことを言うことがあります。
    その時情報カードに書かれているのは……
    まさに法律の言葉だっていうのはありますね。
    (2009年6月13日22時29分)

    Comment by 佐々木将人 — 2010年7月15日0時05分


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