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国会議員定数不均衡

そういえば,大学時代,憲法ゼミで担当したのが
定数不均衡だったりする。

1 国会議員の性格は?
日本に限らずこの性格づけで実は統一された合意がないし
法で決めれば決まるって話でもないもんで
ここで議論が実は既に混乱しているというのはあります。
例えば「国会議員はその選挙区の代表だ」という考え方。
割と日本では支持を受けている考え方なんだけど
本当にそれでいいだろうか……と。
日本国憲法43条1項は
両議院は,「全国民を代表する」選挙された議員でこれを組織する
としているんだけど
全国民を代表するはずの国会議員に「その選挙区の代表」という考え方持たせていいの?とか。
また政党本位の選挙を目指すとした小選挙区制導入でありながら
=候補者自身ではなく候補者の所属する政党こそが最大の関心事であるはずなのに
選挙区を変えることを「国替え」と称してみたり
地縁のない選挙区から立候補することを「落下傘」と称してみたり……。
※たとえばUKは極論を言うと選挙ごとに選挙区変わるからなあ。
 政党本位の極端な形はアメリカ大統領選挙における選挙人だよね。
 その選挙人の個性はどうでもいい。選挙人がどの大統領候補に投票するかが唯一のポイント。
そして選挙区の意向に拘束されるのか?
この点も実は煮詰まってないしコンセンサスも得られていない。

また安易に「国民の意見をよりよく反映させるように」というけど
国民の意見が多種多様で(あるべきだし)ある以上
それをよりよく反映させると
ある意味国民の縮図が国会になってしまう。
そういうので本当にいいのか?
多少はフィルタリングした方がいいんじゃないかという話もある。

国会議員の性格付けで実は議論の混乱の要因があるわけで
整理した議論をしたければまずここで整理する必要があるわけさ。

2 そもそも定数不均衡は人権侵害になるのか
実はこれ,絶対ではなかったりします。
歴史的に見てもUKの議会の小選挙区というのは19世紀まで
(イギリスらしいといえばそれまでだけど)歴史的経緯が重視されて
有権者が1人しかいないとか0だとかという選挙区が存在していたり
「大学選挙区」という大学を単位として選挙区が存在していたりで
1票の格差がとんでもなく存在していたんだけど
それが格差で問題なんだと認識されること自体が20世紀に近くなってからの話。
フランス革命のあたりでも
「身分によって1人に与えられる票数が異なること」は
平等原則に反するとされたけど
言い換えれば選挙区内で格差があることは平等原則の問題とはされたけど
選挙区間の格差が平等原則の問題だとは直ちにはされなかったのです。
選挙区間の格差が平等原則の問題だと認識されたのは20世紀になってからと言っても
あながち間違いじゃないかもしれません。
現代では「人口比で決定する限り」平等原則の問題と解されていますが
あくまで「人口比で決定する限り」という留保がつきます。
例えばアメリカの上院は「各州2人」の上院議員で構成されますが
2000年現在人口の一番少ないワイオミング州で49万人
多いカリフォルニア州で3387万人と70倍近い差があるのに
上院についてはどっちも2人です。
これはアメリカがその建前として
「それぞれが等しい国家=statesが集まって連邦として対外的には1つの国家となるのだから
 それぞれのstatesは平等である」
から,その州の代表も平等であり,上院は州の代表によって構成されるという思想を徹底しています。
これを人口比にすることは上院の性格付けを変えることになるのですね。
従来はこのような発想は日本には向かないとされていました。
江戸時代の幕藩体制ならまだしも
明治以降の中央集権国家で,都道府県の配置がもっぱら中央政府によるものであるのに
「都道府県が集まって日本国を作った。
 →都道府県は対等である」
というのは無理があるとされてきたのです。
しかし,衆議院と参議院の選出方法を変えるというのはありの話ですし
第2次世界大戦後の参議院の全国区制度は
「職業別の代表を選出させよう(=職能代表制)」という思想があったとされていますから
参議院の選挙区を一気に「各都道府県2名の同数」とするのも
そのこと自体で直ちに違憲とはならないのです。
そもそも選挙区を設ける時点で格差は必ず発生するのですから
(端的に言えば端数処理で既に不平等にはなる。)
人口比を厳格に守らなければならないとなると
選挙区に分けるということが憲法上許されないってことになるはずなのですが
そういう議論をする憲法の先生はさすがに極端少数説だと思います。

3 1票の格差の計算法
日本では最大と最小の格差を比率で表すのが当たり前になっていますし
「1人に2票与える結果となる格差2倍以上は違憲」
というのはわかりやすい計算法だとは思います。
しかしこれも絶対ではありません。
最大と最小だけに着目するから
そこだけなんとか2倍以下にしようというごまかしかたが出てくるとも言えます。
例えばアメリカの違憲基準は
選挙区制をとらない場合の議員1人あたりの人口or有権者数を求めて
各選挙区の議員1人あたりの人口or有権者数が
その基準のプラスマイナス33.33%を超えると違憲となるという考え方です。
もともと厳格に1倍は無理でも
できる限りそれに近づけるべきだという発想であれば
あるべき数字からどれだけ離れたかで違憲になるという基準の方が確かに素直です。
(ちなみにプラス33.33%とマイナス33.33%で日本流に計算すると2倍です。
 アメリカでは最大と最小で2倍にならなくても,
 基準から離れすぎるとそれだけで違憲にするのです。)

4 ここで一休みして選挙方法の整理(抜粋)
選挙方法自体あまり整理されていないのでここで整理しておきましょう。
学説では「大選挙区制vs小選挙区制」としてその区別を
「その選挙区から1人だけを選ぶのか複数選ぶのか」という点におくのですが
定数不均衡違憲判決の効果を正確に議論するためには
「選挙区制を採用するか否か」という場合分けをまずした上で
採用した上で「大選挙区制vs小選挙区制」と区分した方がわかりやすいと思います。
……学説は「選挙区制の採否の有無」に議論の利益を認めてこなかったのです。
  そうすると全国1区と大選挙区の本質的違いはないですわな。
それから
「多数代表法」「少数代表法」「比例代表法」という軸も整理しておきましょう。
(比例代表「制」……じゃないからね。)
「多数代表法」というのは,多数派に議員を独占させるやり方
アメリカの大統領選挙で多くの州が「勝った側の総取り」としているけど
これは多数代表法です。
あと小選挙区制は当然に多数代表法。
(=勝った側が1人を総取り)
「少数代表法」というのは,少数派にも議員を選出させるやり方
昔の日本の「中選挙区制」は定数が複数あっても投票用紙には1人しか書けず
その多い順に決定するんで,多数派でなくても議員になり得たのです。
これが少数代表法。
「比例代表法」というのは「少数代表法」の一種で
定数を得票数に応じて比例配分するのが特色。
この軸に
「全国1区制(=選挙区なし)」「大選挙区制」「小選挙区制」
の軸を組み合わせて議論するのが原則なのです。
……これにさらに「1人だけ書くのか何人書けるのか」という
 「単記制(1人だけ)」「制限連記制(定数未満で複数)」「完全連記制(定数分複数)」が組み合わさる。
たとえば大選挙区制でも完全連記制で行くと多数代表法になっちゃう。

5 日本の公職選挙法の選挙無効制度の大穴
で,これは意外に知られていないんだけど
日本の公職選挙法の選挙無効→選挙のやり直しというのは
無効原因がその選挙区内に止まるものしか想定していないんですよ。
定数不均衡による違法は想定していない。
おそらくは法改正がなくともやり直しの選挙が可能な場合しか想定していないんですね。
でも……定数不均衡って法改正がなくともうやり直しの選挙が「憲法適合的」に可能なんだろうか?
……正直私が今回のマスコミの報道で不満なのが
  この点について触れているマスコミが一切ないって点なんですよね。
  ある意味その不満のためにこの文章書いていると言ってもいい。
具体例で見てみましょう。
1区の人口が10万人で定数1
2区の人口が5万人で定数1
……議員1人あたりの人口は1区で10万人,2区で5万人だから2倍だね。
そこで1区の有権者が選挙の無効を求める。
1区の選挙が無効になったとする。(実はここが大穴なわけだけど。)
1区の選挙をそのままやり直して問題解決?
……しないよね。
全体の定数がどうなってもいいなら
一番簡単な解決は1区を人口5万人ずつの新1区と3区に分割してしまうことだ。
新1区 人口5万人 定数1
2区  人口5万人 定数1
3区  人口5万人 定数1
でもね……この場合,従前の1区の当選者の議席を失わせる必要あるのん?
だって新1区と3区で2人選ぶ必要があるのに1人しか選ばなかった点が問題だと考えれば
1人追加で選べばいいってことで解決可能でしょう?
これは実は以前の中選挙区制の時の方がわかりやすい。
1区 人口12万人 定数3
2区 人口6万人 定数3
この時に全体の定数がどうなってもいいなら
1区の定数を3から6に増やせば問題は解決やん。
(定数を4とか5に増やすことで「2倍以下だ」って逃げ方はしないことにする。)
この場合,1区の選挙を無効にしてやり直す必要本当にあるのん?
3足りないだけなんだから追加で3選べばいいでしょってえのは一理あるでしょ?

で,ここまで書くと勘のいい人は気付いたかもしれない。
まず第1に「全体の定数がどうなってもいい……というのは無理筋でしょ。」ってこと。
確かにそう。無理筋。
そこで第2の……いよいよ本当の問題提起がくる。
今の中選挙区の例
1区と2区の人口合計18人で定数が6なら
本当は区割りを変えない限りこうするべきだよね。
1区 人口12万人 定数4
2区 人口6万人 定数2
ちなみに中選挙区制は恣意的な区割りを防ぐため定数は3~5とされていたが
後に違憲状態解消のために2人区と6人区を現に作っています。
このことで「2人区を3つ作るか6人区を作るか」のような
恣意的な区割りが可能になってしまったのですが
それを避けるのなら
人口が9万人ずつの定数が各3になるよう区割りをやり直すべきです。
で,どちらをとるにしても
2区の選挙を手つかずにして1区だけ議論していいの?って思いません?
区割りを変えないのであれば2区をそのままにするのは全体の定数をいじらない限り無理。
全体の定数をいじれないのであれば
区割り変更が必須だし,
区割り変更がなければ
1区を増やすだけではなく
2区を減らすことも必要になる。
にもかかわらず
「1区だけ選挙無効」で本当にいいんだろうか……と。
全体の定数をいじらないのであれば
全国1区であれば問題がなかったのを
選挙区制を導入しつつ適正な区割りをしなかったので問題になったという以上
区割りが全体として違憲って考えるのが自然な考え方だし
格差2倍以内になっている選挙区間は無効でもなんでもないと限定したとしても
2倍以上になっている選挙区は大小の両方が無効にならないとおかしいのではないか。
さらに選挙が無効としても「足りないのが問題」であれば
「追加して選べばいい」という解決策があるのではないか……
そういう議論が……まず流れてないでしょ?

それともう1つ。
こっちは触れているマスコミもなくはないんだけど
選挙後国会は開かれいくつもの法律が成立しているんだよね。実は。
そうすると……
その法律に無効な選挙によって選ばれた議員が関与していたとした場合
その法律は有効なの?
本来であれば無効でしょ?
そこをまあ会社法でもあるように
採決結果を詳細に検討し,無効な選挙によって選ばれた議員を採決から除いても
同じ結果になったのであれば無効にはしない……という解決策は可能だわな。
でもそれ式で,「無効ではない法改正は可能なの?」
って疑問にちゃんと答を準備できるだろうか……。

このように考えていくと
法理論的に簡明なのは
実は
「区割り自体が全体として違憲無効である」
 ↓
「だけど区割り規定以外は違憲無効とはならない。」
 ↓
「法改正がされない状況下でも全国1区で選挙ができる」
って線だったりするのです。
……確か学界通説と言っていいと思う。
  これに対し,「裁判所が適切な区割りをした上で選挙を命じられる」という有力説もあるけど
  裁判所が直接法を作るのはさすがに立法権の侵害として許されないだろうというのが通説からの批判。

6 ちなみに日本の判例の読み解き方
最高裁は実は一貫して基準を示していない……というのは
判例を検討している人たちにとって割と有名な話。
違憲基準は2倍だ3倍だというのは
実は最高裁が言ったのではなく
いろんな判決つきあわせてみるとどうもこうではないかという線にすぎないんです。
で,それをふまえると
日本の最高裁判例の読み方は
憲法違反かどうかを1本の線で判断しているのではなく
2本の線で判断していたのではないかというのが私の分析です。
(これもこういう分析をしている先生がいないのが難点だけど。)
すなわち衆議院で説明すると
計算方法は日本の伝統的な「最大と最小の比率」でいって
2倍になると本当は平等原則違反なんだけど
そのことでは直ちに「違憲判決」は書かない。
だけど2倍を放置して3倍になったら「違憲判決」を書く。
2本の線とは言い換えれば
「平等原則違反という憲法違反か否かの判断基準」と
「判決で違憲と明言してしまうか否かの判断基準」とのことである
そう説明すると後の事象が説明しやすいんですね。
端的に言えば,司法消極主義を背景にした
「いきなり違憲」と宣言してしまうことを避ける発想ですな。
そしてこれは実は国会の側も
「違憲を言われる前に改正して解消しようとしていた」
ことによって正当化されていたのです。
なもんで私が学生の頃は
「学説2倍,最高裁3倍」ということだけおさえておけば足りた。
ところが……
その後,解消ができなくなったり
「3倍以内にとどめれば違憲とは言わない」と短絡的に考えて
3倍をきればいいや程度の改正にとどまることが見られた。
裁判所の側は本当は2倍で違憲出したいけど
ある意味猶予の意味で3倍までは黙っていたのが
3倍以内ならいいって誤ってとられたのではないかってことになって
裁判所が新たに言い出したのが
「2倍で違憲だけど,改正のための合理的な期間を経過していないから
 まだ違憲だとは言わない。」
っていういわゆる合理的期間論なのです。
※これ割と個人的にも鮮明な記憶があって
 ある時OBでありながら現役のゼミに参加したことがあって
 しかもその時のネタがやはり定数不均衡で
 で,予想通り,振られたわけだけど
 現役生が合理的期間論をきちんと分析していて
 「え,そんな基準あるの?」「佐々木さんの頃は無かったよね」
 って話が出たんですわ。
それともう1つは事情判決の法理だよね。

そうなると今の判例としては
「2倍で違憲→合理的期間の経過でいよいよ違憲を書く」
という,昔とは微妙に違う2本の線を設けていると読むべきだというのが
私の分析です。
そして違憲を書いてもさらに踏み込んで(直ちに)無効を言っちゃうのか
将来のある時点以降無効にするのか
事情判決で無効までを言わないのかが
今回高裁判決が分かれたところなのだと思います。
(1つだけ例外あったけど。)

7 余談
某ニュースサイトによると「司法テロだ」と言った国会議員がいたとかいないとか……。
テロの意味が全然違うんでまあガセネタだとは思うけど
この文章読めば
「むしろ国会が大さぼりじゃん」
ってわかってもらえるんじゃないだろうか?


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