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図書館を名乗るからには触れないわけにはいかないでしょう

もう日本では忘れられている話だと思うんだけど……。

話は6年前にさかのぼる。
google社がアメリカの大学図書館と組んで書籍の電子化をはじめたことに対し
(法的に言えば著作権者の許諾が不要なfair useに基づくものだという主張の模様)
アメリカの作家組合が著作権侵害を理由として差止訴訟を起こした。
その訴訟で当事者間に和解が成立しそうになったんだけど
その和解案で,ある意味世界中が騒然となったのだ。

というのはこの訴訟がclass actionとして提起されたため
仮に和解が成立すると訴訟に直接参加した者だけではなく
アメリカで著作権が認められる全ての者にその和解の拘束力が及ぶことになる訳だ。

でもそれだけじゃあなんで世界中が?ってことになるだろう。
(実際,class actionのシステムがない国が圧倒的に多いはずで
 その場合「参加していないのにいつのまにか拘束される」ってこと自体ピンと来ない。)
ところがネタが著作権であることが問題を世界レベルに引き上げた。
いわゆるベルヌ条約
(正式名称が寿限無的なので,ネタとして提供しておこう。
「1886年9月9日に署名され、1896年5月4日にパリで補足され、1908年11月13日にベルリンで改正され、1928年6月2日にローマで改正され及び1948年6月26日にブラッセルで改正された文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」
……ちなみに日本における公布文は当時縦書きだから年月日の表記は漢数字になっている。)
は,
・著作権の発生に要式は要求されない
・加盟国の1国で著作権が発生すると他の全ての国でも著作権の効力が発生する
と定めているわけ。
そして国内的には著作権の発生に要式を要求しているアメリカも最終的にはこの条約に参加しちゃったから……。
「ベルヌ条約加盟国で著作権が発生している場合,その著作権はアメリカでも保護される結果,
 上記class actionによる訴訟の和解の効果がベルヌ条約加盟国において著作権が認められる者全てにおよぶ」
ことになったわけ。

そして問題の和解の内容が
「グーグルによる電子化を認めるかわりにグーグルからお金を支払うか
 和解に参加した上でグーグルによる電子化を拒否する」
という話だったので
日本でも騒然としたんですよ。一時期。
……そりゃあそうだよな~。
「電子化を拒否したければ和解に参加した上で電子化を拒否しないといけない」内容なんだもの……。

結局この和解案は
「アメリカで著作権の登録をした者及び4か国での著作物に限る」
ということになって,対象から離れた日本では,地味な話題になって収束したのですが……。

つい先日ニューヨークの連邦地方裁判所がこの和解の承認を拒否したそうです。
原文読めてないんで毎日.jpの報道によるなら
「権利者が反対しない限り電子化して利用できるのではなく
 権利者が同意した場合に限り電子化して利用できるとすべきである」
というのが裁判所の判断のようで
決着はまだまだ先の話なのですが……。

一方で著作権のうちの一部の権利は著作者が死亡した後一定期間で消滅し
自由に利用できるんですね。
日本でも青空文庫のように保護が切れた作品を電子化している例があるんですし
文化の保護を全面に打ち出すならなぜそれまで待てないのか……と思います。
そうなると文化の保護というより,むしろそこに収益を求めたものなのだし
それなら収益に関する権利者の許諾取りなさいよというのは
至極まっとうな発想だと思うんですね。

決着がまだ先だから評価もしちゃいけないところなんだろうけど
「商業的な利益を得るんであれば
 商業的な利益を得る権利のある者の許諾をきちんととるべきで
 その許諾なしに行ってはいけない」
という点が維持されるのであれば,
「裁判所は正しい判断をした」って評価していいと思います。

個人的には
「商業的な利益のためにfair use持ち出して正当化するなよな~!」
とも思っているけどね。


  1. 既に原文をお持ちかもしれませんが
    http://www.nysd.uscourts.gov/cases/show.php?db=special&id=115
    で読めますね.

    Comment by 小野孝男 — 2011年4月14日0時16分

  2. 小野さん,御教示ありがとうございました。
    さっそく入手しました。
    ……意外に長い……(泣)

    Comment by 佐々木将人 — 2011年4月14日0時50分


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