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学問としての法律学と法律についての問題が出る資格試験対策の違い

法律が試験科目になっている資格試験で
しかもその試験の形式が正誤を尋ねる「○×式」もしくはその変形となっている場合があります。
これって実は「法律学」という学問から見れば
結構「その○×を答えさせるのはナンセンスだよなあ」って問題があったりします。

抽象的に言うと
「この場合にはAとBをしなければならない」
という条文の知識を前提に
「この場合にはAをしなければならない」
という記述の正誤を問う問題。

この記述の正誤って構造的に両方あり得ちゃうから困っちゃう。

まず学問的にはこの記述の正誤は「○」にしなければならない。
すごくラフな言い方をすれば
Aをしなければならないこと自体には間違いはないわけで。
でも実務的にはこれの正誤を議論するのは意味がないのも事実。
というのは
「AをしましたけどBはしていません」なんて相談者に対し
「Aをしたのであればそれでいいよ」って答えてもしょうがないわけでしょ?
「AとBの両方が必要だ」という条文どおりの正確な知識をもとに
「それならBもやってくださいね」ってアドバイスをしなきゃいけない。
「Aをしなければならない」ことの正誤はどうでもいいでしょ?
……でも冷静に考えればこの場合でも「Aをしなければならない」のが誤りなら
 「Aはやらなくてもよかったんだけどね~。」って言えるけど
  この場合はそうは絶対に言えないんでやはり「正しい」としなきゃいけないのだが……。

ところがね……。
法律が試験科目になっている資格試験だとこうは単純には行かなかったりするのさ。
というのは,私,海事代理士試験対策のページで問題の分析をした時に書いたんだけど
法律の試験と言っても実は2種類あって
「なんのことはない,条文そのものだったり,条文に対する標準的な解釈を丸暗記して,それとの文字列の一致を聞く」
知識量を尋ねる問題と
「条文に操作をくわえて解釈を行い意味を導き出す」
法解釈作業の能力を尋ねる問題があるのさ。
そして法律の形式を借りた知識量を聞く,言い換えれば暗記勝負の問題の場合は
上の問題について「AとBの両方をやらなければならない」場合には
「Aをやらなければならない」という記述を
「Bについてもやらなければならない」という理由で「×」にしなきゃいけないんですね。
(ちなみにこれが学問的ではないと私が思う理由は
 もっぱら法律学の前提となる論理操作の点からで
「Aである」という記述は「Bについては何も述べていない」から「BかもしれないしBでないかもしれないと読まなければならない」のに反し,
 Aであるという記述かでBではないと読み取っているんで,
 それはそういう反対解釈が許される状況であることが明示されない限り,アウトです。)
この時に,学問的にどうのこうのというのは
「法律が出題される資格試験対策としては」「野暮」なのです。

この場合必要なのは,出題者が示す正解・模範解答から
その試験で求められているのが「単なる知識量・文字列一致の判定能力」なのか
「法解釈能力」なのかをみきわめて
それにあわせる作業なのですね。

ちなみにきっかけとなった問題を紹介します。
平成23年度の宅建試験の第42問で
私のサイトのアクセスログ見ていたら刑法の構成要件のところをリンクしていて
試しにリンク元見てみたら宅建試験=宅建業法に刑法の構成要件の話を持ち出していて
「おいおい」と思って流れを追ってみたら……。
ネタ的におもしろかったという話。

問題は,今の私の説明に沿う形で改変しています。
原文はネット上に転がってますので必要でしたら御自身でどうぞ。

宅地建物取引業者A社(甲県知事免許)がマンション(100戸)の分譲のために案内所を乙県に設置する場合には、業務を開始する日の10日前までに、乙県知事に法第50条第2項の規定に基づく業務を行う場所の届出を行わなければならない。正しいか誤りか。

ちなみに
宅地建物取引業法
50条2項
 宅地建物取引業者は、国土交通省令の定めるところにより、あらかじめ、第15条第1項の国土交通省令で定める場所について所在地、業務内容、業務を行う期間及び専任の取引主任者の氏名を免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事及びその所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならない。
15条1項
 宅地建物取引業者は、その事務所その他国土交通省令で定める場所(以下この条及び第50条第1項において「事務所等」という。)ごとに、事務所等の規模、業務内容等を考慮して国土交通省令で定める数の成年者である専任の取引主任者(第22条の2第1項の宅地建物取引主任者証の交付を受けた者をいう。以下同じ。)を置かなければならない。
宅地建物取引業法施行規則
6条の2  
 法第15条第1項 の国土交通省令で定める場所は、次に掲げるもので、宅地若しくは建物の売買若しくは交換の契約(予約を含む。以下この項において同じ。)若しくは宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介の契約を締結し、又はこれらの契約の申込みを受けるものとする。
一  (省略)
二  宅地建物取引業者が十区画以上の一団の宅地又は十戸以上の一団の建物の分譲(以下この条、第16条の5及び第19条第1項において「一団の宅地建物の分譲」という。)を案内所を設置して行う場合にあつては、その案内所
(以下略)

ちなみに……
この問題で単純に知識量を聞く問題にするなら
「乙県知事に法第50条第2項の規定に基づく業務を行う場所の届出を行わなければならない。」
の部分を
「乙県知事に法第50条第2項の規定に基づく業務を行う場所の届出を行えば足りる。」
「甲県知事に法第50条第2項の規定に基づく業務を行う場所の届出を行えば足りる。」
「乙県知事にのみ法第50条第2項の規定に基づく業務を行う場所の届出を行わなければならない。」
とするのがベターなんだけど
ある種の受験テクニック(限定は×が多い)で難易度が下がってしまう難点がある。
……でも正直法律の試験で解釈不要な丸暗記問題出す時点で難易度どうこう言うのが間違っているとは思う。


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